デジタル変革が進展するなか、リモートワークや副業などの新しい働き方が増えてきている。会社への忠誠心や、長期的な貢献だけを前提とした人事制度はもはや時代遅れであり、多くの企業が人事制度の見直しを進めている。企業は、制度の設計や移行だけを目的化することなく、多様な働き方に適応できる人材と組織のあり方を問い直していくべきである。
「ジョブ型雇用」や「メンバーシップ型雇用」というキーワードが数年前からよく議論されるようになってきている。ジョブ・ディスクリプションと呼ばれる職務記述書に基づいて、採用・配置・評価・退職に至る一連の人材マネジメントを行う経営へと、多くの企業が対応を図ろうとするなか、見直すべき日本型雇用システムを象徴する用語としてメンバーシップ型雇用が一般的に使われてきている。2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行され、「長時間労働の是正」「正規・非正規の不合理な処遇差の解消」「多様な働き方の実現」などが企業に求められるようになっていることも背景にある。
従来の日本型雇用は、長期雇用制度(終身雇用、永年雇用制度ともいわれる)、年功賃金制度(年功序列制度ともいわれる)といったキーワードで表現されることが多かった。日本人は「就職するのではなく就社する」のに対し、欧米人は「スキルや賃金の向上を求めて転職を繰り返す」ジョブホッピング、ジョブホッパーであるといった言葉もよく知られているだろう。メンバーシップといわれるようになったのは比較的最近で、元厚生労働省官僚であり労働政策研究者の濱口桂一郎氏が、『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』(岩波新書、2009年)で定義したのが最初といわれており、同書で濱口氏は、日本型雇用システムの本質を「職務のない雇用契約」「一種の地位設定契約であるメンバーシップで雇用されている」と分析している。
雇用も契約である以上、具体的にどういう労働に従事すべきかが明示されなければ、一般原則としての公正な契約は成立しにくい。契約の対象が人であり、人の行動である労働が契約の目的であることから、厳格な限定列挙にそぐわない部分はあろうが、労働者と雇用者相互の権利をできるだけ明示すべきであり、その契約単位として職務(ジョブ)を明記すべきというのは、むしろ当然のように思える。