生産性の向上は、企業の経営者だけでなく国全体の課題でもある。そうした課題提起としてよく用いられるのが労働生産性ベースの国際比較であるが、表層的なメッセージや単なるキャッチコピーに使われていることも少なくない。企業は、「日本は生産性が低い」といった短絡的な情報を鵜呑みにせずに、自社の生産性向上に向けた立ち位置を明確化していくべきである。
1人あたりのGDPを向上させ、経済的な豊かさを実現するには、より効率的に経済的な成果を生み出していかねばならない。総務省の「情報通信白書 平成30年度版」第1部第3章第1節「ICTがもたらす生産性向上」によれば、「『生産性』とは、その効率性を指す概念であり、これを定量的に表す指標の一つとして『労働生産性』が用いられている」とある。このような説明を読んで、その内容に疑問や違和感はないだろう。経済的成果は、国家においてはGDPであるが、企業では売上高から売上原価を差し引いた売上総利益、いわゆる粗利に近い。労働生産性は、分子にあたる付加価値をこれら経済的成果とし、分母の就業者1人1時間あたりの労働量で除して算出される。単純にいえば、企業ベースでは就業者数および労働時間が少なければ少ないほど、つまり、より少ない労力で売上総利益が高いほど、計算上では労働生産性の数値は高くなる。
生産性には、その他にも代表的な指標として資本生産性、全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)がある。資本生産性は労働量ではなく、機械設備、店舗、土地など資本1単位あたりの付加価値であり、TFPは労働や資本を含む全ての要素の付加価値を算出する指標である。