顧客との深いエンゲージメント構築のためには、企業や商品のブランド認知を高める広告宣伝を行うだけでは不十分である。コロナ禍において、マーケティング環境も大きく変化した今日、改めて双方向のコミュニケーションの手段としての「企業コミュニティ」が注目されている。本稿ではその背景と、企業がコミュニティを主宰することで得られるメリットを考察する。
企業コミュニティとは、主宰する企業がマーケティングを目的に顧客との対話型のコミュニケーションを行う場である。本稿で取り扱う企業コミュニティは、一企業がその企業に興味関心を持つ「ファン」に対してインターネット上のプラットフォームにて個人IDを付与し、双方向にコミュニケーションを行うことを指す。企業コミュニティは、古くはインターネット黎明期の2000年代初頭よりWeb掲示板を活用し運営されてきたが、スマートフォンとSNSが普及する2010年代中盤はコカコーラ、味の素など大規模な企業コミュニティが開設され、商品やキャンペーンの認知形成手段のひとつとして展開された。また、同時期には良品計画の「idea park」など自社の商品・サービス改良を目的とした共創型コミュニティも出現し、現在も活発に運営されている。
このように企業コミュニティは、双方向で顧客とコミュニケーションを行う方法として運営されており、昨今の代表的なものには、森永製菓「エンゼルplus」や日本航空の「JALの旅コミュニティ trico(トリコ)」などがある。コロナ禍において店頭販促やリアルイベントなどが制限され、オンラインによる顧客とのコミュニケーションのニーズが高まっていることはいうまでもない。デジタルを活用した顧客接点といえば、Webサイト、SNS公式アカウント、メールマガジンなどが思い浮かぶが、それらを介した情報提供だけでは、氾濫する情報のなかで顧客の興味関心を引くことがすでに難しくなっているのが実情である。
そこで、企業コミュニティを活用することで、企業の一方的な発信では獲得できない、顧客との双方向の理解・共感を構築しようと、これに取り組む企業が増加している。