DX、ビジネスイノベーション、ITコスト削減などのIT戦略を遂行するうえで、レガシーシステムが足かせになる可能性が極めて高い。企業のIT部門は、案件ごとにレガシーマイグレーションの手法を決定するのではなく、自社のITインフラ戦略/方針を早期決定し、それらに基づいたレガシーマイグレーションを推進すべきである。
1990年代から「レガシーシステム」という単語がIT系メディアで散見されていたが、経済産業省が2018年に発行した報告書「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」において、企業DXの足かせになっているのが「レガシーシステム」であると明文化されたことによって、国内IT業界では、あらためて「レガシーシステムからの脱却」いわゆる「レガシーマイグレーション」が大きくクローズアップされる状況になっている。同レポートではJUAS(一般社団法人日本情報システムユーザー協会)の2017年度調査結果を引用し、レガシーマイグレーションの重要性を訴えている。JUASではレガシーシステムを「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」と定義している。
「システムの肥大化・複雑化」や「ブラックボックス化等」は、システムの本質的な問題ではなく、システム設計や運用保守方針や体制に起因することが多いため、本稿では「技術面の老朽化」を中心に、システムの本質的な要素/構造に基づいてレガシーシステムの定義を行うこととしたい。
「レガシー」について議論する際に、この用語の対象が何であるかを認識することが重要である。レガシーシステムを構成するIT要素と例を図1に示した。これらのなかには、現時点でも一定数の利用企業が存在するものも少なくない。これらのIT要素に関して、現在レガシーかどうか、そして将来レガシー化するかどうかを自社で判断することが重要である。
システムがレガシー化する要因を図2に示した。最も重要なポイントは「アーキテクチャ」である。基本設計時期が古く、関連するIT環境の変化(インターネットやDevOpsなど)に追随できていないIT要素はレガシーの代表選手である。現代のITは「オープン」が基本であり、「プロプライエタリ」(ITベンダー独自のアーキテクチャ)が今後発展する可能性は低い。「稼働環境」がレガシーに限定されるIT要素は、必然的にレガシー化する。いくら優れたアーキテクチャであっても、世界中で利用するエンジニアが稀少であれば(つまり「シェア」が低い)、そのIT要素が発展する可能性は低い。レガシー化しているかどうかの判断基準としては、「バージョンアップ頻度」を見るとよいだろう。これは、ソフトウェアに限定したものではなく、ハードウェアのバージョンアップ(モデルチェンジ)も含まれている。最終更新時期が5年以上前のIT要素はレガシー化していると断言してよい。