クラウド活用方針をIT戦略の一環として検討する国内企業は多いとはいえない。案件ごとにクラウド事業者を選定する国内企業が多く、その結果クラウドがサイロ化して、ビジネスに寄与する企業ITからかけ離れてしまうこともある。IT部門においては、クラウド活用方針をIT基盤戦略として検討し、マルチクラウドが自社にとって本当に最適な選択肢であるかを熟考する必要がある。
IT系メディアの記事やITベンダーの広告や提案を見ていると、マルチクラウドが企業が選択すべきクラウド・コンピューティングの将来像のように描かれていることがある。しかしマルチクラウドが自社にとって本当に最善の選択肢であるのか、十分に検討すべきである。本稿ではマルチクラウドおよびシングルクラウドの長所と短所を明確にし、ユーザー企業にとってよりよい選択を行うための判断基準を明らかにしたい。
本稿におけるマルチクラウドの定義を図1に示す。ここでは、複数のクラウド環境を活用するパターンを4つ示しているが、パブリッククラウドとプライベートクラウドを利用する形態を「ハイブリッドクラウド」、複数のパブリッククラウドを利用する形態を「マルチクラウド」としている。また、複数のクラウド環境を相互連携することなしに利用することを「併用型」、相互連携して利用することを「連携型」に分類している。
本稿では、ITインフラとしてのクラウド・コンピューティングについて述べるため、アプリケーションをクラウド形態で提供するSaaS(Software as a Service)は対象外とする。アプリケーション開発実行環境やミドルウェアのクラウド提供であるPaaS(Platform as a Service)およびサーバ、仮想/物理ハードウェア、ネットワークなどの低レイヤーITインフラのクラウド提供であるIaaS(Infrastructure as a Service)が議論の対象である。また、Dockerのようなコンテナや、Kubernetesのようなコンテナ・オーケストレーター、およびサーバレス/FaaS(Function as a Service)は、ここではIaaS/PaaSの範疇に含んでいる。