デジタライゼーションに取り組む企業や、クラウドやアジャイル/DevOpsに前向きな企業が増えている。しかし、現在の企業ネットワークはクライアント/サーバ時代のネットワーク構造を引きずっており、これらの新しい取り組みに適応できない。国内企業は「企業プラットフォームとしてのネットワーク」という視点で全体を包括するアーキテクチャを検討し、それを具現化するネットワークを設計/構築/運用すべきである。
デジタライゼーションやSoEに対して前向きに取り組む国内企業が増えている。これまでにない新しいビジネスや業務に取り組むためには、さまざまなアイデアの迅速な試行や、外部企業/組織との協業を支援するシステムの開発が必要で、アジャイル開発/DevOpsやマイクロサービスが重要なポイントとなり、ITインフラはクラウド・コンピューティングとなる。このような背景から、国内企業におけるクラウドへの取り組みが盛んになっているが、クラウドは基本的にはサーバサイドの取り組みであり、IoTセンサーやVRメガネやスマートフォンといったデータ発生側のデバイスとつないでデジタライゼーションを推進するためには、ネットワークが重要な役割を担う。
国内大企業の典型的ネットワーク構成を図1に示す。ほとんどの場合、長い歴史を経て構築された結果できあがったネットワークであり、企業ネットワーク全体に対する設計思想やアーキテクチャは希薄である。例えば、「拠点とデータセンターをどの通信キャリアでつなぐのか」や「インターネットのセキュリティをどのように確保するのか」といった個別の課題に対症療法的に対応してきた結果が現在の国内企業のネットワークであるといってよいだろう。
図2では国内企業ネットワークの根本的問題を整理した。ネットワークは、企業IT基盤において極めて重要な役割を担っているにも関わらず、ネットワークをプラットフォームとして捉え、どのような思想でビジネスを支えるかを考えている企業は非常に少ない。ITインフラに関わるITスタッフは図1に示したような自社の企業ネットワークの概要図を見て、全体を包括する設計思想を感じられるかどうかを自問自答されたい。
また、現在の企業ネットワーク、特にWANは、クライアント/サーバ時代の「社内PC」および「社内サーバ(データセンター設置サーバ)」を前提とした構造のため、社内外に分散する「マルチデバイス」や「クラウド」には適さない。社外で活動する社員にリモートアクセスで業務システムにアクセスする際にどれくらい面倒な手順を経ているのか、意見を問うとよいだろう。
企業ネットワークの構想や基本設計は極めて重要であるにも関わらず、自社でそれを遂行する国内企業は非常に少なく、ほとんどが大手通信事業者やネットワーク・インテグレーターに委託している。その結果、特定のテクノロジ/サービス/ソリューション/ベンダー/インテグレーターへの依存度が高いロックインされたネットワークになり、ネットワークの柔軟性や先進テクノロジへの迅速な対応ができなくなっている。