デジタル技術を活用したイノベーションに対する期待が高まっているが、業種業態、企業規模、業績の好不調などによって、こうした動きに対する企業の姿勢はさまざまである。特に経営者や事業部門のデジタル化や変革に対する意識の差は大きいといえる。デジタル化の推進を全社的なイニシアチブとするためにどのような働きかけが必要なのだろうか。
さまざまな業界においてディスラプター(破壊者)が台頭している。特にデジタル技術を武器として登場したデジタル・ディスラプターは、これまでとまったく異なるビジネスモデルで既存の業界構造や商習慣に風穴を開け、既存の大企業の優位性を大きく揺るがす存在となっている。米国のアナリストであるジェイムズ・マキヴェイ氏は、その著書『DIGITAL DISRUPTION — 破壊的イノベーションの次世代戦略』(実業之日本社、2013年)の中で、デジタル・ディスラプターというのは、あらゆるところから現れ、デジタル・ツールやデジタル・プラットフォームを活用して顧客を奪い、業界にイノベーションを起こすと述べている。
デジタル・ディスラプターの出現を「それは海外の話だ」「我々の業界とは異なる」といった論調で対岸の火事と捉える向きもある。地域や業界によって脅威に対する温度差は確かに存在する。「対デジタル・ディスラプター戦略」(マイケル・ウェイド他著、日本経済新聞出版社、2017年)で紹介されているDBTセンターが行った941名の既存企業の上級エグゼクティブに対する定量的調査によると、今後5年以内に(市場シェア)上位10社の既存企業のうち平均して約4社が、デジタル・ディスラプションによってその地位を奪われるとしている。とりわけ、通信やテクノロジの業界で大きな影響が及ぶと認識されているが、このような現象はハイテク業界に限った話ではない。
同調査の別の質問で「デジタル・ディスラプションの結果、共創から取り残されるリスクがある程度または著しく増加した」と回答した人の割合は、旅行・ホテル業界が第1位(49%)、次いで小売(47%)、メディア・エンターテインメント(46%)、金融サービス(45%)、消費財製造(44%)の順となっており、通信やテクノロジの業界を上回っている。このように、非常に幅広い業界においてデジタル・ディスラプションの脅威が認識されている。