2018年5月、企業の戦略的IT利活用の促進に向けた取り組みの一環として「攻めのIT経営銘柄」と「IT経営注目企業」が公表された。本稿では、今回の選定における対象・プロセス・評価要素の概要と、「レガシーシステム刷新」が新たに評価要素として加えられた背景について紹介する。
2018年5月30日、経済産業省と東京証券取引所により「攻めのIT経営銘柄2018」が公表された。これは、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化のために、積極的なITの利活用に取り組んでいる企業を東京証券取引所(一部、二部、ジャスダック、マザーズ)上場会社から選出する取り組みで、今年で4回目を数える。加えて、2017年からは、経済産業省が独自に「IT経営注目企業」として、「攻めのIT経営銘柄」には選定されなかった企業の中から、総合評価の高さや注目されるべき活動実績があるなど一定の基準を満たした企業を選出する取り組みも開始された(ITR Review 2017年8月号『「攻めのIT経営銘柄2017」の活用』#R-217085)。
選定対象とプロセスについても確認する。対象は、上場会社約3,500社にアンケート調査を依頼し、企業が回答することでエントリーが完了する(491社)。選定プロセスは、一次評価の段階ではアンケート調査の「選択式項目」などによりスコアリングを実施し、一定基準以上の企業を候補企業として選定する。二次評価の段階で候補企業がアンケート調査の「記述式項目(企業価値向上のためのIT投資プロジェクト事例)」で回答した内容について、選定委員が評価する。これらの結果を基に、「攻めのIT経営」委員会による最終審査が実施される流れとなる。
では、「記述式回答」における3つの評価要素を見ていく。「IT活用による『革新的な生産性向上』の実現」や「IT活用による『既存ビジネスの拡充』の実現」が、新たなデジタル技術の活用や先進的なIT活用や収益への貢献といった観点において評価されることは従来と同様である。今回の評価の大きな特徴は、「IT活用による『ビジネス革新』の実現」において将来性・発展性の観点で「レガシーシステム刷新」が加わったことにある。なお、「レガシーシステム」とは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化のいずれかに当てはまるシステムを称し、その特徴も改めて定義された(図1)。
これは、前年に「IoT・ビッグデータ・AI・ロボットなどの最新のテクノロジを活用し、新たなビジネスモデルや価値を創出する取り組み」を重点的な評価ポイントとして加えた件とは、一見すると方向性が異なるように見える。しかし、中長期的な視点から攻めのITの促進を図るうえでは、レガシーシステムの刷新こそが鍵となると考えられる。なぜなら、レガシーシステムは新たな技術やデータを迅速かつ最大限に利活用することを困難にしているといえるからだ。経済産業省によると、「レガシーシステムの存在が、デジタル化の進展への対応の足かせになっていると感じる」企業は6割を上回っている(図2左)。また、レガシーシステムを有する企業は8割を超えている(図2右)。これらの事実から、レガシーシステムの刷新を推進する重要性が喚起されたといえる。