業務生産性の向上が叫ばれて久しい昨今だが、その実現手段のひとつとして注目されているキーワードが、「RPA(Robotic Process Automation)」である。これは、ソフトウェア・ロボットによって、これまで人間が行ってきた業務の自動化を実現するという取り組みを示す用語である。RPAの実用化は今後のワークスタイルやIT部門の役割にも影響を及ぼすと考えられる。
「RPA(Robotic Process Automation)」とは、これまで人間のみが対応可能と考えられてきた作業をソフトウェア・プログラムによって代行させ、より高度な業務の自動化を行う取り組みを指す用語である。「ロボティクス(ロボット)」の名称が利用されてはいるが、ベースとなっているのはあくまでもソフトウェア技術であり、自動化の対象が主としてホワイトカラー業務であるという点で、生産現場などで稼働している物理ロボットとは区別される。
RPAが注目を集めている技術的な背景は、AI(人工知能)およびその研究過程で生まれた各種認知技術の進歩である。特に画像(画面)認識の高度化の貢献は大きく、ユーザー・インタフェース層での作業が自動化できるようになったことにより、人間がPCで行ってきた作業の置き換えが低コストで可能になった。例えば、「マウスのクリック操作」「入力窓への入力」「コピー&ペースト」「アプリケーションの起動」「ログイン/ログアウト」「データベースへのクエリ発行」といった作業は、現在のソリューションでも自動化が可能である。
現に、これまで新興国の低賃金労働者をBPOサービスとして活用してきた欧米企業では、RPAの導入によって業務のインソース化を進める動きが広がっている。欧米企業が参加し、ビジネス主導のIT活用を研究する任意団体である「Operational Agility Forum」では、RPAを導入することのメリットとして、以下の8つを挙げている。
昨今、「AIによって雇用が失われる」といった議論が盛んである。経済産業省も2016年4月、「AIやロボットなどの技術革新によって、2030年度には(対2015年度比で)735万人の国内雇用が減少する」との試算を発表した。こうした議論からは、AIによって引き起こされる労働市場の変化が遠い将来の出来事のような錯覚を受けるが、実はそうではない。RPAによって実現される業務の自動化は、現時点では初期段階にすぎないが、すでに実用化が始まっており、今後段階的に高度化していくと考えられる。企業においても、「人とマシンの役割分担」について再考を迫られることになろう。