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【R-216053_6962929218】IaaS活用指針

作成者: 株式会社アイ・ティ・アール|Sep 26, 2023 8:18:26 AM

パブリッククラウドの中でも多くの企業が採用しているIaaSは、企業におけるIT基盤となりうる重要なテクノロジ/サービスである。IaaSの検討に当たっては、これまで多くの企業が犯してきた過ちを避け、戦略的かつビジネス指向で取り組まなければならない。

IaaS活用における代表的な失敗例

IaaSを活用する企業は2010年から少しずつ登場しており、現在ではIaaSは「当たり前の選択肢」となっている。ITRでは数多くのユーザー企業のIaaS活用例を見てきたが、代表的な失敗例を提示することにより、IaaS活用のポイントを整理することとしたい(図1)。

図1.IaaS活用における代表的な失敗例

出典:ITR

最も多い失敗例は、IaaSをIT基盤の有力候補と見なさず、システム案件ごとにIaaSを選定することである。これはかつてメインフレームからオープンシステムに移行する際に多くの企業が多種多様なサーバメーカーやハードウェアを選定してきた過ちの繰り返しである。オープンシステム化における場当たり的な対応が現在のシステムサイロ化につながっていることをIT部門は十分理解しているはずだが、IaaSで同じ過ちを繰り返そうとしているのだ。「戦略なきIaaS採用」はクラウドの乱立につながり、システム間連携度が低く、運用コストの増加やIT部門におけるスキルの分散を引き起こす。

そのIaaSのアーキテクチャを十分に理解せずに提供機能や価格だけで採用するケースも多い。他サービスと互換性がない独自アーキテクチャのIaaSを選択した結果、そのIaaSにロックインされてしまう危険性がある。ある企業では選択したIaaS上でシステム構築を行ったが希望するパフォーマンスが得られなかった。そのため、そのIaaSを諦め別のIaaSに移行しようとしたが、使っていたIaaSが独自アーキテクチャであったことから多くの部分を改めて作り直すことが必要となった。同様な例としては、IaaSを構成するソフトウェアなどの要素技術が非公開なものを選択したために、そのIaaSを運用ツールから監視や制御を行うことができなかったというものもある。技術情報をオープンにしているIaaSを選択すべきであった。

IaaSを選定する際のアプローチで誤るケースも多い。経営陣の指示やIT部門の方針だけでIaaSを選定したが、業務部門の要件を満たすことができなかった例は多く存在する。「クラウドありき」で検討すべきでない。同様なケースは、市場シェアや知名度だけでIaaSを選定した場合でも起こり得る。IaaSを検討する際に、利用部門と導入「効果」の定義を行っていないケースも多い。これはIaaSに限ったことではないが、IaaSに何を期待するのか利用部門と十分に事前摺り合わせを行わなければ「お金がかかるだけのサービス」と認識されてしまう恐れがある。クライアント・サーバ型アプリケーションなどのレガシーシステムをそのままIaaSに移行しても正常動作しないことがある。IaaSを単なるサーバの代替と考え、IaaSの制約を事前に調査していない場合、このようなケースが発生する。

国内ユーザー企業のIT部門がIaaSを運用する場合、最も多い過ちはこれまでの個別サーバや仮想サーバと同等の運用を行おうとすることである。多くのIaaSは運用保守のためのAPIやサービスを提供している。これまで人的工数を多く掛けてきた運用保守作業のほとんどは自動化することが可能となっている。にもかかわらず、これまでと変わらないやり方でIaaSの運用保守を行っているユーザー企業は非常に多い。