ITRでは、毎年行っているIT投資動向調査の結果、クライアント企業から受ける質問や依頼されるブリーフィングの内容、および各種のITプロジェクト支援の成果を加味し、多くの大手企業にとって重要と考えるIT戦略テーマを選定している。本稿では、2016年に向けてITRが抽出した10の戦略テーマの概要、予測およびキーワードを提示する。中期IT戦略や次年度のIT投資計画の立案の際に参考にされたい。
デジタル化の波はIT部門だけでなく事業部門や経営者層にまで及んでいる。多くの経営者は、既存のビジネスモデルや収益メカニズムが遠くない将来に淘汰され、次世代の新興企業やイノベーションを敢行する競合他社にとって代わられる危機感を持っているのが実情だ。組織の再編や再定義により、デジタライゼーションの機能強化を図り、これに備える企業も増加傾向にある。このように、国内企業における「攻めのIT」に対する感度は、ここ数年で格段に高まったといえるだろう。
一方で、従来型のビジネスへ目を向けると、ITに関する課題はいまだ多種が存在する。IT部門は、開発生産性の改善やシステムの安定稼働だけでなく、いかに活動実績を報告し、IT支出を適正化するかに苦慮しているのが現状だ。強いコスト抑制のプレッシャーのなか、サイバー攻撃、災害、コンプライアンスへの対応といった課題も依然として重要度が増してきている。こうした「守りのIT」も看過できる状況にあるとはいえない。
これらの背景からITRは、企業が2016年に注目すべきIT戦略テーマを「攻めのIT」分野と「守りのIT」分野に整理して、以下のように設定した(図1)。「攻めのIT」は、主に外部(顧客)に対する提供価値の創造・拡張に結びつくテーマと捉えることができる。企業は、デジタル技術の活用によるビジネス創造を求めており、そのための重要な役割をITに期待している。また、「守りのIT」とは、内部(社内)に対する提供価値の創造・拡張を見据えている。競争力の高いITサービスを社内へ安定供給し、企業競争力を下支えすることが期待されている。