IT投資のイニシアチブをとるべきIT部門が十分にその役割を果たせていないという企業が少なからず存在する。本稿では、企業に見られる組織間のパワーバランスに起因する問題点に着目し、健全なIT投資を具現化する体制にシフトするためのヒントを示す。
現在、多くの企業が共通して抱える課題として、IT費用の抑制とIT投資枠の拡大の両立というものがある。これは、企業におけるIT支出が年々拡大してきて財務を圧迫する状況になってきたからであり、さらにその6~7割もの金額が新たな価値を産まない維持費用で占められることによる。将来の競争優位を見据えて、早期に投資モードへシフトすることが求められている。
一方、一定水準で新規投資を継続していても、その戦略性については不十分と考える企業も少なくない。ITRでも提言しているように、IT戦略は、「経営課題」「ITビジョン」「技術シーズ」といった多様な観点から立案することが求められる(ITR Insight 2003年春号「IT戦略に求められる3つの起点」#I-303041)。IT投資は本来、認識される経営課題や事業課題を解決するだけでなく、将来の経営ビジョンに向けての進路を切り開く側面を兼ね備えなければならない。法制対応やビジネス基盤の更改といった投資案件ももちろん軽視できないが、未来のビジネス環境を見据えた企業ITの将来像(デジタルワークプレースなど)や技術シーズによる付加価値向上(IoTを活用したビジネスサービスなど)を体現する投資案件にこそ、経営資源を投じるべきであろう。こうした投資の質的変化への要求も高まってきているのが現状である。