組織内のコミュニケーションを活性化させるためのツールとして社内ソーシャルシステムに注目が集まって久しいが、「ソーシャルネットワーク」の本質は、システムがつくりだす環境(場)よりもむしろ、コミュニケーションで利用する「プロトコル(約束事、様式)」にある。ソーシャル時代のコミュニケーション・プロトコルを取り入れることは、情報共有を高度化するうえで不可欠な要件となる。
組織内のコミュニケーション手段としてのソーシャルシステムの有用性については、ITRでも過去に何度か述べてきた(ITR Review 2013年6月号「再び注目が高まる企業向けSNS」#R-213062 ほか)。ITRが2014年5月に実施した国内企業を対象としたアンケート調査でも、有効回答件数(931件)のうち、社内でソーシャルシステムを利用している割合は半数以上に上り、その活用度合いについても前向きな回答結果が示された(ITR Review 2014年8月号「ITR User View:社内ソーシャルシステム動向調査」#R-21408U)。
しかしながら、未導入企業の関係者と意見交換すると、社内におけるコミュニケーションのソーシャル化を「専用システムやサービスの導入や利用」という観点のみで捉えている向きが意外に多い。そのため、導入の検討に際しても、製品やサービスの機能や価格、導入後のシステム運営の工数が先に立ってしまい、「費用対効果が十分に出せないのではないか」「メールが使えればそれで十分ではないか」といった消極的な結論が導き出されやすい。
実のところ、ITを活用したソーシャル化のゴールは、必ずしもシステムの機能を導入・利用することによる「場づくり」にあるわけではない。各種のサービスによってはぐくまれてきた、新しいコミュニケーションの「プロトコル(約束事、様式)」を使いこなし、それが定着して初めて、効果を発揮するのである。こうしたソーシャルによって生まれた新しいコミュニケーション・プロトコルの多くは、古くは掲示版(BBS)やIM(インスタント・メッセンジャー)、その後のブログやコミュニティサイト、さらにはTwitterやFacebookなど、各種のコンシューマー向けサービスから誕生したものであるが、ここ5、6年ほどの期間を経て収斂化・成熟化が進み、ある種の標準が確立されつつある。図1は、ソーシャルシステムでよく利用されているコミュニケーション・プロトコルと、誕生のきっかけとなった主なサービスをまとめたものであるが、このうちのいくつかは、すでに企業向けシステムにも実装されている。
例えば、Twitterによって広まった「メンション」は、マイクロソフト社の「SharePoint 2013」で採用され、「@(アットマーク)」をクリックすることで個人を名指ししたコメント入力が可能となった。また、FacebookのニュースフィードやTwitterのタイムラインに相当する時系列や読み手の反応度合いなどに基づくコンテンツ配置のユーザー・インタフェースは、IBM社のNotesクライアントで「アクティビティ・ストリーム」として実装されている。
つまり、ソーシャルなプロトコルに対応したシステムこそが本来のソーシャルシステムであり、そうしたプロトコルを使いこなして業務に必要な情報共有が日常的に行えるような状態が生まれることこそが、「社内ソーシャル導入の成功」を意味すると考えるべきなのである。