企業経営や事業活動に対してITはどのように貢献しているか、ITにより得られるビジネス価値とは何か、といった点について明確な解を見出すIT部門は少ない。しかし、ビジネス成長にITが寄与していることを示されなければ、ITの価値は過少評価され、投資はますます抑制されることになるだろう。IT部門は、ITパフォーマンスを適切に可視化し、ビジネスとITの溝を埋めるために、社内に訴求することが求められる。
IT部門はビジネスにどのように貢献しているか。これを把握し、社内に訴求することは、ほとんどのIT部門にとって大きな命題であるに違いない。特に、国内企業においては、多くの場合、IT部門の地位が低く、コストセンターと見なされる向きがある。ビジネスを推進するというより、むしろ現行のビジネスの足を引っ張らないことを求められているようなケースさえ見受けられる。
一般的な事業部門、つまり販売部門、生産部門といった直接部門と比べて、ITに関わる活動が、ビジネス貢献度を測りにくいのは事実である。例えば、販売部門であれば、販売額や利益率の拡大が収益にプラスの影響を及ぼすことは容易に想像できる。また、生産部門による品質管理精度が向上すれば、資源効率が高まり、利益をもたらすだろう。しかし、IT施策については、例えばネットワークを増強したことでいくら儲かったか、データ分析基盤を構築すればどれだけ投資効果を得られるのかなど、とかく計数化しにくい投資案件が多い。
ITによるビジネス価値が何たるかは、古くから各所で論じられている。例えば、1994年に米国国防省CIOを務めたポール・ストラスマン氏は、著書『コンピュータの経営価値(日経BP社)』で、「IT支出とビジネス収益性に相関性はない」と述べている。一方、元META Group社のアナリストであるハワード・ルービン氏は、営業経費に占めるIT支出比率と収益性には相関があるとし、IT支出のビジネス価値を認めている。このように、ITがビジネス価値を有するか否かといった点についてさえ、普遍的な共通見解がないのが現状である。ITパフォーマンスのKPIについては、COBITやITILなどのフレームワークを参照できるが、汎用的なITマネジメントに関わる基準となっており、個々の企業の経営やビジネスの特性を反映したものではない。つまるところ、IT部門は、ビジネス貢献度を測定・評価するのに、独自の基準を構築しなければならない。それを社内で合意形成し、ある種の社内マーケティング活動を通じて、事業部門や経営者層に訴求する必要がある。