IT業務の外部委託先に関する基本方針において、複数のベンダーとの個別契約とするか、特定ベンダーとの包括契約とするかは、企業によって考え方が分かれるところである。アウトソーシングを実り多きものにするためには、各々のメリット/デメリットを理解することが前提となる。
国内企業のIT業務は、大きくマネジメント領域(IT戦略策定・IT企画、IT投資マネジメント、ITアーキテクチャ構想化、超上流工程など)とオペレーション領域(システム開発・保守、インフラ運用など)に分けられる。マネジメント領域は、IT戦略方針や意思決定に関わるため、自社ITスタッフで固めるインソーシングが一般的であり、オペレーション領域については、少なからず外部ベンダーなどに委ねることとなる。企業のIT依存度が増すにつれ、アウトソーシングの活用度は高まり、需要はいまなお拡大路線にある。昨今は、インソーシング/アウトソーシングという単純な構図ではなく、派遣・準委任・請負契約の混在、プライム・コントラクターへの一括委託、コンサルタントの階層型配置、ベンダー協業を目的としたIT子会社化施策といったソーシング・スキームの多様化も指摘される。
アウトソーシングの活用機会が増すことで、外部委託に関わる課題も噴出している。いかに優良なベンダーを選定し、その効果を最大化するかといった議論は一般的によく見られるものである。しかし、この議論は、マルチベンダーでいくか、シングルベンダーでいくかといったベンダー利用形態に関する方針を確立していることが前提となる。なぜなら、いずれの方針を採るかによって、アウトソーシングの効果を高めるための実現手段、端的にはベンダー・マネジメントの手法が変わってくるからである。
マルチベンダー指向/シングルベンダー指向は、いずれも得失があり、早計に優劣を判断するのは得策でない。ITRが行ったユーザー調査においても、アプリケーション開発、インフラ運用ともにマルチベンダー指向/シングルベンダー指向は一定割合が存在し、いずれかの形態が主流といえる状況にはない(図1)。縦割り組織でサイロ型にシステムを構築してきた企業は、マルチベンダー指向になりやすく、大型コンピュータを中心に特定ベンダーへの依存度が高い企業は、シングルベンダー指向になりやすい。過去の経緯から、結果的に現在の利用形態が定まってきたという企業は少なくないだろう。しかし、マルチベンダー/シングルベンダーの方針化は、その後のベンダー・マネジメントのあり方に決定的な影響を及ぼす。適正な評価・検証を経て方針化されていれば良いが、そうでなければ、各形態の得失を再認識して、自社IT環境との適性を鑑みて方針化すべきである。