AIの進展は、企業の創造活動の前提を大きく変えつつある。従来は個人の経験や直感に依存していたアイデア創出も、AIとの対話を通じて体系的に拡張可能となった。企業は、AIを効率化での活用にとどめることなく、創造プロセス全体に組み込み、組織能力へと昇華することが求められる。本稿では、人とAIが協働する新たなイノベーション創出プロセスと、それを支える組織能力について考察する。
AIやデジタル技術の普及は、ビジネス環境そのものを大きく変化させている。これらのテクノロジは業務効率化や意思決定の高度化を可能にする一方で、多くの企業が同様の技術を利用できるようになるため、単に技術を導入するだけでは差別化要因にはならない。むしろ、テクノロジをどのように活用して新しい顧客価値やビジネスモデルを創出するかが、企業競争力の決定要因になりつつある。言い換えれば、AIの時代において競争優位を生み出すのは、テクノロジそのものではなく、それを活用して新しい発想や事業を生み出す企業の創造能力である。
さらに、社会や顧客ニーズの変化も企業にイノベーションを求めている。デジタル化の進展によってB2B・B2Cを問わず顧客の期待は急速に高度化しており、もはや業務の効率化や改善を行うだけでは優位性を維持できないばかりか、従来の製品や役務中心のビジネスだけでは顧客価値を十分に提供できなくなっている。企業には、製品、サービス、データを組み合わせた新しい価値提案を継続的に生み出す能力が求められる(図1)。
このような環境の中で、企業にとってイノベーションは一部の研究開発部門だけが担う活動ではなく、組織全体が取り組むべき継続的なプロセスとなりつつある。したがって、企業が競争力を維持するためには、新しい問いを生み出し、解決策を設計し、それを事業として実装する一連の創造活動を、組織として再現可能なかたちで確立することが求められている。