IIT投資の重要性が高まる一方、エンタープライズITにおいては、IT投資責任が依然としてIT部門に偏る傾向が強い。この構造は、投資成果に対する責任の所在を曖昧にし、外部パートナーへの過度な依存や委託範囲・責任分界の不明確化につながる。結果として、事業価値の創出に資するIT投資が阻害されるリスクが高まっている。本稿では、IT投資責任の所在と構造的課題を整理し、経営・事業部門・IT部門の責任分担を再設計するアプローチを提示する。
本稿では、個別案件の承認主体を指す「経営層」と、全社的な資源配分や統治責任を担う「経営」を区別して用いる。また、「事業」と「IT」は順に価値創出領域と機能領域を指し、「事業部門」と「IT部門」はそれらの責任を担う組織主体を指すものとする。
多くの企業では、IT投資の検討・承認・実行が、固定的な分業構造の下で進められてきた。すなわち、事業部門は業務要件や機能要望を提示し、IT部門はそれをシステムとして実装する。経営層は予算承認や優先順位の判断を担うが、稼働後の利用定着や収益成果への関与は限定されるといった構造である。この構造では、事業部門は要求主体、IT部門は実行主体、経営層は承認主体として固定されるため、投資判断時の期待効果と実行後の成果検証が別主体にまたがる。結果として、稼働後に期待した成果が得られない場合でも、誰が改善を主導し、どの責任で投資効果を再検証するのかが曖昧になりやすい。つまり、従来型のIT投資では、意思決定と成果の分離、責任と権限の非対称性、主体間の依存関係の固定化が同時に生じる(図1)。
この構造は、経営・事業部門・IT部門のそれぞれに異なる影響を及ぼす。経営にとっては、経営層による案件ごとの承認は行えても、投資全体がどの価値に結びついたかを把握しにくくなる。事業部門にとっては、成果創出より要望提示が中心となり、投資活用の主体性が弱まりやすい。IT部門にとっては、システム実装の範囲を超えて、利用定着や事業成果への対応まで期待され、資源配分の難易度が高まる。その結果、投資判断の速度、成果検証の精度、資源配分の納得性が同時に損なわれる。