ビジネスITの範囲の拡大とともに、システムの大型化や特殊化が進み、自社システムの開発業務を委託する際の契約管理の重要性が一段と増している。こうした契約管理はIT部門が主体的に対応すべきであり、そのために基本的知識を備えるとともに、交渉力強化と管理の効率化を軸とした契約管理の高度化に取り組むべきである。
ビジネスにおけるITの重要性が拡大するとともに、システムの大型化や特殊化が進んでだことで、システム開発の失敗を招いて、発注企業側とベンダー側の間でその責任を問う訴訟事例が増加している。
2017年12月、京都市は30年前から稼働していた国民健康保険や住民基本台帳などを扱う基幹系システムの刷新プロジェクトの遅延に伴い、業務委託していたシステムズを提訴した。報じられた内容では、訴額は約8億円、内訳はすでに支払い済みの刷新費用の返還と、稼働遅延に伴う損害賠償金である。一方、システムズ側も同年11月に京都市に対し2017年4年から7月の作業費用として約2億円の未払い金の支払いを求める提訴をした。発注側と受注側で主張が全く異なる代表的な事例だ。
こうした状況のなか、企業は、遅延なくプロジェクトを完遂させるためにどのような契約管理を行うべきかを改めて考える時期に来ている。
そこで本稿では、契約管理の高度化を推進するためのアプローチについて論ずる。
本論に進む前に、まずは契約管理の概念に触れておきたい。そもそも、契約にはさまざまな種類が存在する。例えば、民法では売買、賃貸借、雇用などを典型契約として定めている(ITR Insight 2007年10月号「攻めのSI契約に向けたモデル契約書の活用」#I-307101)が、本稿では対象をシステム構築や保守運用などに代表されるシステム開発委託に関連する請負契約と準委任契約とする。さらに、「契約管理」とは、これらの契約の交渉・締結から締結後の管理までの全てのプロセスに関わる業務の総称とする。