企業は、長年、現状を可視化したうえであるべき姿を描く現状分析型のアプローチを採用してきた。しかし、この現状から将来を導き出すアプローチは、大きなジレンマを内包している。企業は、現状の制約や前提条件に縛られずに理想像を描くアプローチに転換していくべきであり、それによりビジネスとテクノロジの同期性を高めていくべきである。
企業が、5年から10年先を見越した中長期的なプランニングを行うにあたり、現状を可視化したうえで将来のあるべき姿を描く手法として、いわゆるAs-Is/To-Beの対比アプローチはすっかり定着している。
いくつかの類型はあるものの、基本的には、①現状課題の深掘りから着手し、経営ビジョンや中長期経営計画などを踏まえつつ、②自社の強みにあたる推進要因であるドライバーを考慮して、③将来こうありたい、こうあるべきと想定したゴールを描く。さらに、経営者に答申する際に必ず求められる、あるべき姿の実現に対するリスクとしてのギャップ要素を抽出しその解消に備える。最後に、前向きな②ドライバーと後ろ向きな④ギャップのベクトルを相殺しながら、ゴールに向けたマイルストンとしての⑤ロードマップを、おおむね3段階程度で描くのが一般的である。
しかし、この常識化したアプローチが、あるべき姿を描くのをかえって難しくするジレンマを内包していることを指摘したい。未来の状況下で理想とする状態と、現状の状態との差分を対比するAs-Is/To-BeアプローチはITの専売特許ではないが、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の骨格そのものであり、IT部門に浸透しているのは確かである。そのため、こうしたスタイルやマインドが染み込んだIT部門ほど、現状に縛られて、なかなかあるべき姿が描けないジレンマに陥りがちとなる。